
前回Fender社が、Stratocasterのボディデザインをそっくりそのままコピーして作っているメーカーに対して、製造や販売をやめるように求める警告書を送ったことについての記事を書いたのですが、今回は停止通告書に関して、同社から声明発表があったので、その内容について解説していきます。
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Stratocasterの形を巡るこれまでの常識

エレキギターの歴史の中で、Fender社が1954年に発売したStratocasterは、まさに革命児のような存在でした。
あの洗練された3つのシングルピックアップ、体にフィットする滑らかな曲線のボディ、そして劇的な効果を生み出すトレモロアーム。これらは今でも数え切れないほどのミュージシャンに愛され、ロックやポップスの歴史を引っ張ってきました。
ただ、あまりにも完成度が高すぎたために、世界中で星の数ほどのコピー製品や、そっくりのモデルが生まれることになります。
これまでの楽器業界では、ヘッドストックと呼ばれる先端部分の形さえ違っていれば、ボディの輪郭そのものを真似することに対しては、わりと大目に見られてきた歴史があります。法的に規制するのが難しかったこともあり、初心者向けの手頃なものから職人がこだわる高級ギターまで、街の楽器店にはStratocasterタイプの選択肢が溢れていました。
そんな状況に冷や水を浴びせることになったのが、ドイツ・デュッセルドルフ地方裁判所による判決です。
この裁判で、欧州の著作権法のもとではStratocasterのボディデザインもしっかり守られるべきだ、という画期的な判断が下されました。この歴史的な追い風を受けて、Fender社はアメリカ国内のメーカーに対しても、本格的なストップをかけ始めたというわけです。
どこまでがセーフ?Fenderが引いた境界線
ここで気になるのは、Fender社がすべてのStratocasterタイプを市場から消し去ろうとしているのか、という点ですが、決してそういうわけではありません。
彼らが問題にしているのは、あくまで自社のデザインを極めて近い形、あるいは完全に再現している完コピ製品になります。
Fender社が提示している方針を整理すると、以下のような内容になります。
- Stratocasterとはっきり区別できるデザインなら、他社がギターを作って売ることは大歓迎。
- 今回のアクションは、市場の自由な競争を邪魔するためのものではない。
- 自分たちの象徴的なデザインを守ることは、製品の価値と歴史を次世代に繋ぐための義務である。
つまり、Stratocasterの使いやすさや良いところを取り入れつつも、独自のアイデアを加えたデザインであれば、これまで通り作っても大丈夫ということです。
Fender社はギターコミュニティや独立系ビルダーのアイデアをリスペクトすると公言しており、今回の件はあくまでブランドの顔をそのまま模倣する行為に対する防衛策だと強調しています。
これまではギターの形といえばみんなの共有財産のような雰囲気もありましたが、これからはデザインという大切な資産をしっかり守るという、現代的なビジネスの視点が当たり前になっていきそうです。
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具体的なブランド名から見るセーフとアウトのライン

では、具体的にどのようなギターなら問題がなくて、どのようなものが厳しくなるのでしょうか。巷で人気のモデルや、かつての名作ブランドを例に挙げながら考えてみます。
まずは、Fenderとは明らかに違うコンセプトや個性を打ち出しているハイエンドなブランドです。
SadowskyやTom Anderson、そしてSuhrといったブランドは、ヘッドの形状がFenderとは全く違いますし、何よりサウンドの方向性や作りのコンセプトそのものが本家とは大きく異なります。スタジオワークでガシガシ使えるモダンな仕様や、独自のノイズ対策など、楽器としてのキャラクターが確立されているため、これらは問題なくセーフの部類に入るはずです。
また、John Mayerのシグネチャーモデルとして有名なPaul Reed Smith(PRS)のSilver Skyも面白い例です。ボディのシルエット自体はStratocasterに非常に近いですが、ネックやヘッドの形状は完全にPRSオリジナルのデザインになっています。これをStratocasterと全く同じだと言うには相当無理があるため、Fender側も特に問題視はしないと考えられます。
次に、日本国内で広く親しまれているブランドはどうでしょうか。
たとえば、初心者向けからプロクオリティまで幅広いラインナップを持つBacchus。BacchusもStratocasterタイプを作っていますが、よく見るとFenderとは少し違うなと感じさせる絶妙なバランスを持っています。特にGlobal Seriesなどの低価格帯は、Fender直系のSquierと価格的に競合しますが、パッと見の区別もしっかりつくため、おそらくクリアできるのではないかという印象です。
一方で、完全にアウトとなってしまうのは、やはりヴィンテージの仕様をそのまま再現しようとする完コピモデルです。
かつてESPが展開していたNavigatorというブランドは、FenderやGibsonのヴィンテージを非常に高いレベルで再現した素晴らしいギターを作っていました。現在は当時のままのモデルはありませんし、ESP自体がオリジナルシェイプを得意とするブランドなので今は問題になりませんが、もし現代にあのレベルの完コピモデルを新しく出そうとすれば、間違いなく規制の対象になるでしょう。
このように、いくらユーザーがこれは大丈夫だろうと思っていても、最終的な基準値を持っているのはFenderという会社そのものです。完全再現にこだわるのであれば、今後は正式なライセンスを取得するしかありませんが、そうなるとどうしても価格を安く抑えることは難しくなってしまいます。
これからのビルダーやメーカーは、Stratocasterのシェイプを踏襲しつつも、明確にFenderとは違う方向性やオリジナリティを提示し続けることが求められそうです。
これからのギター選びと楽器業界への影響
この法的な動きによって、これからギターを買おうとしている人や、個人の工房、楽器店にはどのような変化が起きるのでしょうか。いくつか具体的なポイントが見えてきました。
まず面白い変化として、市場に出回るギターのデザインがもっと個性的になる可能性が挙げられます。これまではStratocasterの形をそのままなぞっておけば安心という風潮もありましたが、今後は本家と明確に違うオリジナリティを出さなければなりません。
もしかしたら、この規制をきっかけに、80年代に流行したような塗りつぶしの派手なスーパーストラト系や、モダンなコンポーネントギターの時代が再びやってくるかもしれません。そんなふうに時代が一周するのも、ギターファンとしては少しワクワクする展開です。
ギタリストの目線から見ると、これからはFenderの純正品が持つ価値やステータスがさらに高まることになりそうです。本物であるという証明が、今回の件でより強固なものになるからです。
ただ、ひとつ懸念されるのは価格の高騰です。最近は本家のFenderだけでなく、弟分であるSquierのClassic Vibeシリーズなども、気がつけば8万円台、下手をすればそのうち10万円の大台に乗ってしまうのではないかという勢いで値上がりしています。
ブランドの価値が守られるのは素晴らしいことですが、あまりにも楽器全体の価格が高くなってしまうと、これからギターを始めようとする初心者や若い世代が、最初の1本を買うためにものすごく無理をしなければならない時代が来てしまうかもしれません。そのあたりは、音楽を愛する一人として少しモヤモヤするところでもあります。
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厳しい制約から生まれるこれからの創造性

今回のFender社のアクションは、ギター業界全体におけるデザイン保護の始まりに過ぎないのかもしれません。Stratocasterに続いて、TelecasterやJazzmaster、あるいは他社の有名なモデルについても、同じような動きが広がる可能性があります。
しかし、音楽の歴史を振り返れば、厳しいルールの制限があったからこそ、新しいアートや画期的な機材が生まれてきました。
完全に同じ形を作ることができなくなる世界では、ビルダーたちの職人魂が刺激され、人間工学に基づいた新しいボディや、現代のステージに映える斬新なルックスのギターが生まれるきっかけになります。
伝統を守ることと、新しいチャレンジを応援すること。Fender社が起こしたこのアクションは、その両方のバランスをこれからの時代に問いかけています。
各メーカーがルールをしっかり守りながらも、それぞれ独自の個性を尖らせた素敵なギターを作ってくれること。参考になるようなオリジナリティ溢れるモデルがこれからもたくさん登場し、これから楽器を手にする人たちも含めて、みんながハッピーになれるような平和的な形で業界が進化していくことを、切に願っています。



