
今回のお題は少しシビアですが、DTMや音楽制作機材を作っているメーカーさんの今後について、私なりに思考を巡らせてみたいと思います。
そうそう、この話をしようと思ったきっかけは、皆さんもご存知であろうあのニュースです。Native Instrumentsが破産申請をして再建を図るという話、あれは正直かなり衝撃的でした。
もちろん、これは単純にAIが普及したからすぐに経営が傾いたという単純な話ではないことは理解しています。事業拡大を急ぎすぎた面もあったでしょうし、複合的な要因が絡み合っているのは間違いありません。
ただ、このニュースを聞いた時に、背筋が少し寒くなるような感覚を覚えたのは私だけではないはずです。
この出来事は、これからの音楽制作業界、特にハードウェアやソフトウェアを開発しているメーカーにとっての未来を暗示しているように思えてなりません。
今のままのビジネスモデルを続けていては、未来は決して明るくない。むしろ、かなり厳しい状況に追い込まれていくのではないかという予感が、素人目にもはっきりと見えてしまっている気がします。
時代は確実に変わろうとしています。私たちが愛用してきた機材やソフトが、これまでのあり方では立ち行かなくなる日がすぐそこまで来ているのかもしれません。
音楽生成AIの進化速度がもたらす市場構造の崩壊
Sunoという音楽生成サービスをご存知でしょうか。あれを触ってみた時の衝撃といったらありませんでした。ちょっとした指示を出すだけで、人間が作ったと言われても信じてしまうようなクオリティの曲が数秒で出来上がってしまう。
しかも、最近では歌詞を入れるだけでなく、編集機能も拡張されてきていて、気に入らない部分を直したり、構成を変えたりといったことまでできるようになってきています。
これ、本当にすごいことなんですが、同時にクリエイターにとっては脅威でもあります。
この進化のスピードが尋常ではありません。数年後とかではなく、数ヶ月単位で機能が追加され、音質が向上し、表現力が豊かになっていく。
このままいけば、音楽制作の知識が全くない人でも、スマホ一台あればプロ顔負けの楽曲を作れてしまう時代が到来するのは時間の問題でしょう。
そうなった時に一番影響を受けるのは誰か。それは、これまでDTM市場を支えてきた「ライトユーザー」の層です。
どんな業界でもそうですが、マニアックなプロ層やハイアマチュア層よりも、圧倒的に人口が多いのは「ちょっとやってみたい」というライト層です。
この層が、安いオーディオインターフェースを買い、入門用のDAWを買い、少し背伸びをしてプラグインを買う。その売上がメーカーの体力を支え、次の開発費を生み出していたわけです。
しかし、AIで簡単に曲が作れるようになれば、この層はわざわざ高い機材や難しいソフトを買わなくなります。
スマホで完結するなら、それでいいじゃないかとなるのは当然の流れです。
土台となるこの巨大な顧客層がごっそりと抜け落ちてしまったら、メーカーは一体誰に商品を売ればいいのでしょうか。
サブスクリプションモデルの限界と買い切り型のジレンマ
メーカー側も手をこまねいているわけではなく、多くの企業がサブスクリプションモデルへの移行を進めています。
確かに、プロやヘビーユーザーにとっては、常に最新版が使えるサブスクは合理的かもしれませんし、業務で使うなら必要経費として割り切れるでしょう。
でも、先ほど申し上げたライトユーザーはどうでしょうか。たまにしか曲を作らない、あるいは趣味で少し触る程度の人が、毎月数千円の固定費を払い続けるとは到底思えません。かといって、従来の買い切り型に戻せば安泰かというと、それもまた難しい問題です。一度買ったら数年は使い続けられるのがソフトウェアの良いところであり、メーカーにとっては辛いところでもあります。
一度の購入で関係が終わってしまえば、継続的な収益は望めません。拡張音源や追加機能を売るという手もありますが、必要ない人には全く響かない。結局、どちらのモデルを採用しても、AIが台頭しライトユーザーが離脱していく未来においては、これまで通りの収益を確保するのは至難の業だと言わざるを得ません。
もし一つのメーカー単体で生き残るのが難しいのであれば、今後は業界再編が加速していくでしょう。
似たような機能を持つメーカー同士が合併したり、大きな資本の下で統合されたりして、体力を温存しながら生き残りを図る。Native Instrumentsの件は、その号砲だったのかもしれません。ただ、それでも根本的な解決にはなりません。
もっとドラスティックな変化、製品そのもののあり方を変えるような革新が必要だと私は強く感じています。
DAWそのものが巨大な生成AIプラットフォームになる未来
では、どうすればいいのか。私が妄想レベルで考えているのは、DAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)そのもののAI化です。Sunoのような音楽生成機能を、DAWの標準機能として、あるいは核として組み込んでしまうという方向性です。
想像してみてください。DAWを立ち上げ、ジャンルや雰囲気を指定すると、AIが楽曲の骨組みを生成してくれる。ここまでは今のWebサービスと同じですが、DAWであることの強みはここからです。生成された楽曲の各パート、例えばピアノやドラム、ベースといったトラックを、ユーザーが所有している高品位なソフトウェア音源に自由に差し替えられるようにするのです。
AIが作ったフレーズはそのままに、音色だけを自分が持っている数万円のピアノ音源や、こだわりのドラム音源に置き換える。さらに、AIが人間らしい演奏のニュアンス、ベロシティの強弱やタイミングの揺らぎ、アーティキュレーションを自動で適用してくれる。これなら、生成AIの手軽さと、これまでDTMユーザーが投資してきた資産(プラグインや音源)の両方を活かすことができます。
Web上の生成サービスでは手の届かない、細かいミキシングやマスタリング、エフェクト処理といった「こだわりの仕上げ」をDAW上で行えるようになれば、そこに新たな価値が生まれるはずです。これこそが、既存のメーカーが生き残るための、現実的かつ建設的な落としどころではないでしょうか。
課金システムがDAWを救うかもしれない
収益モデルについても、少し変わったアイデアがあります。それは、DAWの拡張機能として「生成モデル」や「スタイル」を販売するという方法です。イメージとしてはソーシャルゲームのガチャや、アイテム課金に近いかもしれません。
基本機能はある程度安価、あるいはサブスクで提供しつつ、「最新のEDM特化生成モデル」とか「80年代シティポップ風スタイル」、「プロギタリストの演奏ニュアンスを再現するAIモデル」といった特定の要素を、数百円から数千円単位で販売するのです。
これなら、ユーザーは自分に必要な機能だけをちょこちょこと買い足すことができますし、メーカー側も継続的に新しい「ネタ」を投入することで収益を得ることができます。
大きな金額を一度に払わせるのではなく、小さな満足感を積み重ねて課金してもらう。ユーザーにとっても、全機能を高い金額で買わされるより、自分の興味あるジャンルだけを強化できるなら、案外受け入れやすいのではないかと私は考えています。
クリエイターの役割は「プレイヤー」から「ディレクター」へ
機材やソフトが変われば、それを使う私たちクリエイターの役割も変わらざるを得ません。これまでは、楽器が弾けること、コード理論を知っていること、ミックスの技術があることがクリエイターの必須条件でした。
しかし、AIがその大部分を肩代わりしてくれるようになれば、人間に求められるのは「技術」よりも「企画力」や「アイデア」になっていくでしょう。
AIを優秀なアシスタント、あるいは相棒として迎え入れ、彼らに的確な指示を出す。出てきたアウトプットに対して、「ここはもっと激しく」「ここはもっと静かに」とディレクションを行い、最終的な作品としての品質を担保する。これからのクリエイターは、演奏家というよりも、映画監督やプロデューサーのような立ち位置になっていくのだと思います。
もちろん、自分で演奏できることの価値がゼロになるわけではありません。AIが作ったものに、自分だけの一手間、人間ならではの揺らぎや感情を乗せることで、作品に魂を吹き込むことができるのは、やはり人間だけです。
ただ、食っていくためのスキルセットとしては、純粋な演奏技術以上に、AIを使いこなし、全体を統括する能力が重要視されるようになっていくのは間違いありません。
それでも私は機材を愛し、買い支えたいと思う
ここまで、かなりドライで現実的な話をしてきましたが、私個人の感情としては、やはり今のメーカーさんたちには頑張ってほしいし、絶対に潰れてほしくないと思っています。
だからこそ、ブログではあまり公言していませんが、実はセールの時などに、今すぐ必要ではないプラグインや機材をちょこちょこと買っていたりします。お布施と言えば聞こえが良いですが、やはり自分が愛する文化を支えている企業には、少しでも長く存続してほしいですから。
機材を買うという行為には、単に機能を手に入れるだけでなく、そのメーカーの哲学や開発者の情熱に触れるという側面があります。7万、8万といったミドルクラスの機材や、こだわりのプラグイン。そういったものが市場から消え、全てが画一的なAIサービスに飲み込まれてしまうのは、あまりにも寂しい。
だからこそ、メーカーさんにはAIという荒波を乗り越え、むしろそれを乗りこなして、私たちに新しい「ワクワク」を届けてくれるような製品を作り続けてほしいと切に願っています。
これからのDTMの世界を生き抜くために
結論として、私たちはAIを恐れるのではなく、正しく知り、正しく使う段階に来ています。メーカーも、AIを敵と見なすのではなく、自社の資産である音源やエフェクト技術をAIプラットフォームにどう組み込んでいくかを模索する時期です。例えば、Sunoのようなサービスと業務提携して、生成される音源のクオリティを底上げする「公式プラグイン」を提供するのも面白いかもしれません。
音楽制作という行為自体はなくなりません。ただ、そのプロセスと、そこに関わるお金の流れが劇的に変わろうとしているだけです。新しいポジション、新しいマネタイズの方法、そして新しい表現の形。それらをいち早く見つけ出し、適応できた人だけが、これからの時代を楽しくサバイブしていけるのでしょう。
私も、しがみつくのではなく、軽やかに変化しながら、この激動の時代を楽しんでいきたいと思っています。皆さんは、この未来をどう感じますか。

