7月11日、国産エレキギターメーカーの老舗「フェルナンデス」が倒産しました。
1969年に前身の斉藤楽器、1972年に社名をフェルナンデスに変更してから実に半世紀もの間、国内外問わず多くのユーザーに愛されてきたメーカーと言えるでしょう。
私の学生時代である90年代には最盛期を迎えた同メーカーも、ネット社会による情報量の増加によるユーザーの選択肢が増えた結果、こうした結末を迎えてしまいました。
ということで寂しい思いもありますが、フェルナンデスが世に送り出してきたもの、衰退の原因、個人的な思い出などについて手短に書いていきます。
フェルナンデスについて
繰り返しになりますが1969年に前身の斉藤楽器が設立、1972年にフェルナンデスへと社名を変更して現在までギター製造を行ってきた国産ギターメーカーです。
ブランド展開としては「フェルナンデス」はオリジナル、フェンダー系レプリカ、アーティストモデルを中心に、ギブソン系レプリカの「バーニー」、ハイエンド的な位置付けの「P-Project」があります。
70~80年代はギブソン、フェンダー系のレプリカモデルを中心にリリースしていて、そのクオリティの高さで国産ではグレコやヤマハと共にトップクラスの人気を獲得しました。
今でもその頃のギターは「ジャパンビンテージ」として年々価格が高騰し続けています。
90年代からはオリジナルギターに路線を変更し、FRシリーズなどのロングセラーモデルを送り出すのですが、それ以上にアーティストモデルが人気で、布袋寅泰さん、hideさんを始めとした多くのモデルがリリースされました。
最盛期のフェルナンデスは名実ともに国産ギターメーカーのトップに君臨していたと言えるでしょう。
フェルナンデスが生み出したものについて
アーティストモデル
フェルナンデスと言えば国内のアーティストを中心にさまざまなオリジナルモデルをリリースしてきました。
その代表格として元BOØWYの布袋寅泰さんのモデルがあり、私の記憶では当時のドンズバモデルが34万円、普及用のモデルが95,000円だったと思います。
高校生でもアルバイトを数ヶ月頑張れば憧れのアーティストと同じルックスのギターが手に入るというのは、ギターキッズからすればとんでもなく魅力的でした。
X JAPANのhideさんのモデルも非常に人気があって、最終的なデザインとしてはイエローハートがありますが、私としては当時のサイケデリックなペイントのモデルの方が印象深いです。
こちらも普及用モデルは10万円以下で手に入ったので、コピーバンドからすると本当にありがたい存在でした。
あと、私の個人的な趣味としてD'ERLANGERの瀧川一郎さんモデルなんかもあります。
テレキャス、ストラトを経て、現在はレスポールシェイプとなりましたが、今のモデルも本当に個性的でカッコいいですね。
FRシリーズ
フェルナンデスのオリジナルモデルとして代表的なのがこのFRシリーズです。
スーパーストラト系として時代時代でさまざまな仕様のものが幅広い価格帯でリリースされてきました。
フル装備のものだと24フレット、ロック式トレモロ、サスティナー搭載とまさに隙なしといった感じです。
このFRをベースとしたアーティストモデルもあり、まさにフェルナンデスの顔的なモデルです。
ZO-3
見た目がゾウさんなのでZO-3ギターと名付けられたアンプ内臓のミニギターです。
おそらくフェルナンデスで最大のヒット作といっても過言ではないくらいに世界中で愛用されています。
アンプ内蔵ですが、シールドを繋げばアンプからも音が出せますし、エフェクターが内蔵されたもの、スターウォーズなどのさまざまな作品やメーカーとのコラボモデルも把握しきれないくらいにリリースされてきました。
サスティナー
フェルナンデスの専売特許といえば真っ先にサスティナーを思い浮かべる人もいるのではないでしょうか?
バッテリーがある限り、半永久的に音を伸ばし続ける事ができるシステムです。
こうしたデバイスとしてはManiac Musicのサスティニアックが先駆者ですが、国内ではフェルナンデスのサスティナーの方がポピュラーなのかなと思います。
超ロングトーンのギターソロはもちろんのこと、アイデア次第で楽曲制作にさまざまなトリックを仕掛けられるので、現在も世界中のアーティストが愛用しています。
衰退へ至った理由などについて考えてみた
メーカーの選択肢が増えた
フェルナンデス最盛期の一昔前とは違い、現在はネット社会なので誰もがさまざまなギターメーカーの情報にアクセスできるようになりました。
国内はもちろん海外のマイナーなメーカーからオンラインでギターを買うだけではなくオーダーなんかも出来てしまいます。
以前よりも選択肢がとんでもなく増えたことにより、フェルナンデス以外のメーカーを選ぶユーザーも同様に増えてしまったのではないでしょうか。
アーティストモデルの需要低下
最近はプロでもビジュアル系やメタル系以外でアーティストモデルを使うギタリストはあまり見かけなくなったように感じます。
特に最近はプロアマ共にフェンダーを弾くギタリストが多く、他にはPRSやギブソン辺りを中心にSuhrやSadowskyなどのハイエンドブランドをよく目にします。
私の個人的な印象として、フェルナンデスはどの時代においても高価格帯の布袋モデルやhideモデルを受注生産販売しているように思うのですが、いくら両氏の知名度が抜群であったとしても、今の時代だと私と同世代の経済的に余裕のある中年層くらいにしか届かないだけではなく、何度も似たようなモデルを買ってくれる人もそうそういないでしょう。
ESPくらいの人数のヴィジュアル、メタル系アーティストがいる、もしくはフェンダー、ギブソン、アイバニーズくらいに世界レベルの知名度を持つアーティストがいるレベルじゃなければ難しいと思います。
フェルナンデス最盛期であればともかく、現状のラインナップだと正直魅力は全く感じません。
時代に取り残された
フェルナンデスのサイトを見て頂ければ分かると思いますが、衰退の最大の原因はこの一言に尽きると思います。
フェンダーも老舗中の老舗ではありますが、良くも悪くも常に新しい取り組み、定期的に新しいモデルや製品、グッズなどをリリースしています。
渋谷区には専門店である「Fender Flagship Tokyo」があり、見せ方、伝え方が本当に上手いなと思わせられます。
同じく国産メーカーのアイバニーズは変わらず多弦ギターへの情熱を注ぎ続けながらも、ヘッドレスギターをリリースするなど、海外ヘッドレスギターメーカーへ対抗するアプローチを見せていたりします。
何でも今の時代の主流に飛びつかなければいけない訳ではありませんが、サイトのデザイン、製品ラインナップともに時代遅れであるように感じました。
作っているもののクオリティは他メーカーに引けを取るようなものではないですし、プロスペックシリーズは個性的なモデルもいくつかあったので残念です。
終わりに
画像のFRは私が最後に持っていたもので、おそらくFR-75だと思われます。
このギターを含め、フェルナンデスのギターは10本以上手にしてきましたが、結局残ったのはFRB-45という80年代に生産されたベースのみとなりました。
うちにあるフェルナンデスはこれだけです。
整理のため手放す予定でしたが、手直しして今後も使う事にしました
余裕が出来たらまたFRを手に入れたいなと思います。#フェルナンデス pic.twitter.com/cGi7PX8kz1
— AZU (@AZU0000) July 18, 2024
少し前に新しいギターを買ったのですが、この件を機に再度FRが欲しくなりました。
ZO-3はこれからも需要があるでしょうし、FRシリーズもアイバニーズのRGシリーズに負けず劣らず素晴らしいギターです。
負債総額は現時点で債権者約80人に対して約7億円と金額としては厳しいですが、上手くアピール出来ればまだまだ戦えるメーカーのはずなので、手を差し伸べてくれる所があればと願っています。
今回の件で国産メーカーが無くなる寂しさを知ったので、微力ながらも当ブログでは国産メーカを応援していきたいなと思います。