
今回は、中国メーカーが製造する楽器や機材のコピーモデルに関する話題です。最近、X(旧Twitter)上で、ある有名ブランドのギターのコピー製品に対するポストが大きな議論を呼んでいました。
やり手ギター工場の敏腕社長をパチリ📸
このデモギター、実は某有名ブランドの製品ではなくコピーもの。
それにもかかわらず、木材の選定・音の抜け・仕上げの精度、すべてが圧倒的クオリティで驚かされました。… https://t.co/9vgDJiOtmi pic.twitter.com/hJ6EoFtDts— kazuya yamaguchi (@kkkzzzyyy) November 1, 2025
ポスト内の画像を見ると、PRSのコピーモデルが多く並べられていて、そのコピーモデルが安価に手に入るという事実に対して、賛否両論が巻き起こった感じなのかなと思います。
現在の楽器市場を見てみると、日本で売られているギターでも、一定の価格帯を下回ると、多くはインドネシアや中国、韓国といったアジア圏で生産されています。これは、製造コストを下げるための一般的な流れです。一方、日本国内生産である「メイドインジャパン」や、ギブソン、フェンダーといった本国(アメリカなど)での生産となると、価格は一気に上がります。
中国は長年、世界の有名楽器メーカーの下請けとして製造技術を蓄積してきました。その技術力をもとに、独自にブランドを立ち上げ、比較的安価でコピーモデルを市場に送り出すのはビジネスとしては理解できる動きです。
特にPRSのようなハイエンドなギターは、通常数十万円、コストを抑えたSEシリーズでさえ十数万円からが定価のスタートです。それが数万円で手に入るとなれば、価格的なメリットを強く感じるプレイヤーがいるのも当然のことです。
しかし、本家の製品を所有しているプレイヤーからすれば、安易なコピー品に対して複雑な思いや「モヤッとする」感情が生まれるのも無理はありません。コピーモデルがどこまで許されるのかという線引きは難しい問題ですよね。
日本も経験した「コピー天国」の時代
この中国製のコピーモデルの是非を考える上で、私たちが知っておくべき日本の過去の歴史があります。実は、我が国日本も「コピー天国」だった時代があるのです。
1970年代頃から、日本の楽器メーカーはアメリカの大手ブランド、主にフェンダーやギブソンのギターのコピーモデルを積極的に製造・販売していました。
フェルナンデス、グレコ、トーカイといったメーカーが、レスポールやストラトキャスター、テレキャスターといった名機のコピー品を本家よりも大幅に安価で提供していたのです。
これらの国産コピーモデルは、非常にレベルが高く、クオリティも優れており、その評判から本家のアメリカ製ギターの売れ行きが落ちるという事態まで引き起こしました。その完成度の高さから今では「ジャパンビンテージ」として高値で取引されているモデルも多く存在します。
そうした自体に対応するべく、各メーカーからの訴訟により、日本のコピーモデルブームは沈静化しました。
その後、日本のメーカーは徐々にオリジナルデザインの楽器開発へと舵を切っていくことになり、アーティストモデルなど、独自の路線で成功を収める時代もありました。
ギブソン系のギターは「オービル」、フェンダー系のギターは「フェンダージャパン」として、正式なライセンスのもとでコストダウンされた製品が普及したのですが、これも同じくジャパンビンテージとして価格が高騰しています。
エフェクターのクローンと電子回路の権利
ギター本体だけでなく、エフェクターの世界でも、この「コピー」の問題は活発です。特定の有名エフェクターのサウンドを、電子回路を解析して再現した「クローンペダル」が、中国メーカーからも多く登場しています。
ユーザーの質問に対する明確な回答: エフェクターの音を生み出す電子回路そのものは、一般的に著作権法上の保護対象ではないとされています。著作権は「表現」に発生するため、回路図といった図面には著作権がありますが、回路構成という「技術的思想(アイデア)」を利用して、その回路を組み込んだ製品を製造・販売すること自体は、著作権侵害にはあたらない、というのが一般的な解釈です。
したがって、中華製のクローンペダルが、本家とそっくりな音を安価に再現したとしても、それだけでは違法性がないケースが多いのです。私自身、安価なクローンペダルを使ったことがありますが、価格の割には十分以上に使えるクオリティだと感じました。
しかし、注意が必要なのは、エフェクターの見た目、名称、ロゴといったデザインです。これらには商標権や意匠権が発生します。過去には、比較的きちんとしたメーカーであるベリンガーが、伝説的なオーバードライブのクローンモデルを、見た目までほとんど同じ状態で発売し、訴訟問題に発展しました。結果、ベリンガー側は製品名とデザインを変更することで解決に至っています。これは、音が似ていてもデザインを丸パクリするのは権利侵害となる、という事実を明確に示す事例です。
ギターのコピーモデルにおける権利侵害の境界線
今回のPRSコピーモデルの件に戻り、ギターのデザインにおける権利問題の境界線について考えてみましょう。どこまでがセーフで、どこからがアウトなのでしょうか。
ギターのデザインに関する権利問題で、特に重要視されるのはヘッドストック(ヘッドのデザイン)と商標(ブランドのロゴや名称)です。ボディシェイプも意匠権の対象ではありますが、人間の体の構造や演奏性から、ギターの形状はある程度収束してしまうという事情もあります。ストラトタイプやレスポールタイプといったオーソドックスな形状は、長年の歴史の中で「ギターの一般的な形」として認知されており、ボディシェイプだけで訴訟を起こすのは難しい場合が多いようです。
例えば、フェンダーはヘッドストックの形状に強いこだわりを持ち、形状の模倣に対して厳しい姿勢をとる傾向があります。一方、ギブソンは悪質な商標権侵害など、コピーモデルの中でも特に目に余るものに対して、積極的に取り組む姿勢を見せています。
結局のところ、本家ブランドが「これは侵害だ」と判断して訴訟を起こすかどうか、そして最終的に裁判所がどのような判決を下すかにかかっています。
日本のメーカーもごく一部ですが、ガッツリとコピーモデルを作っている所があるので、今後どうなっていくのかは気になりますね。
終わりに
中華製ギターに対して、私個人としては、今のところ積極的な魅力を感じていません。日本のメーカーからも、品質が高く、コストパフォーマンスに優れたエントリーモデルは多数出ていますし、特に問題がないからです。
最近の中華製ギターの中には、スマートフォンと連動したり、アンプやエフェクターを内蔵したりと、オリジナリティのある製品も見受けられますが、個人的には「何でも入っているギター」は、もし壊れた時にどうなるのかという不安があり、長く使えるイメージが持てないのです。
中華製の楽器が勝負できるところは、価格、そしてその価格に対するクオリティの高さ(コスパ)しか残されていないと私は考えています。デザインや音のオリジナリティに関しては、すでに歴史あるメーカーが確立した素晴らしい製品を多数生み出しています。メーカーへのこだわりがない、とにかくコスパの良いギターが欲しい、というプレイヤーにとっては、中華製コピーモデルは有力な選択肢となるでしょう。
中国メーカーがこのままコピーモデルの乱造で終わるのか、それともこの経験を元に、世界をあっと言わせるような、新しい、革新的なオリジナル製品を生み出すのか。その転換期に立っているのかもしれません。
私は、音楽機材も楽器も、基本的に日本のメーカーや歴史のあるメーカーの製品を選ぶことが多いですが、それは単なる個人的な好みと信頼性の問題です。中華製コピーモデルを使う人を否定するつもりは一切ありません。音が良ければ、プレイアビリティが良ければ、それで良いという考え方も尊重すべきだと思います。
中国のメーカーが今製造しているコピーモデルも、将来的にどのような評価を受けるのかは、誰も分かりません。ただの粗悪なコピー品として消えていくのか、それとも日本のジャパンビンテージのように、一定の品質を持つものとして再評価されるのか。
私たちができることは、感情論に流されることなく、冷静に、客観的な視点を持つことです。「まあ、昔の日本もこんな感じだったな」と、一歩引いた視点から、中国メーカーの動向を眺めるのも、楽器業界の歴史を追う楽しみの一つではないでしょうか。日本のコピーモデルが隆盛を極めた時代のことも含め、ぜひ深く掘り下げて調べてみることをおすすめします。




