
今の時代、音楽制作を取り巻く環境は劇的に変化しています。特にAI技術の進化は、私たちがこれまで当たり前だと考えていたバンド活動や楽曲制作のあり方を大きく塗り替えていくんじゃないかと考えています。
私の若い頃のバンド活動といえば、時間と労力をかけて曲を作り、スタジオでセッションを重ね、MTRやレコーディングスタジオで録音し、テープやMD、CD-Rなどでリリースするというのが一般的な流れでした。ジャケットやフライヤー(チラシ)といった宣伝媒体の制作も、自分たちで試行錯誤するか、業者に依頼して高額なコストをかける必要がありました。当時のデジタルオーディオワークステーション(DAW)はまだ発展途上であり、アナログ機材を駆使したり、手作業での編集やデザインが中心だったのです。
しかし、今はAIの登場により、その制作工程の多くが、より手軽に、そしてスピーディーに完結できるようになっています。
楽曲のアイディア出しから完成まで、AIが制作を加速させる

バンドメンバーで新曲を作ろうという時、以前なら誰かの持ってきたデモやアイディアを元に作り込んでいくというのがセオリーでした。しかし今は違います。例えば「Suno」のような楽曲生成サービスに、バンドメンバーのアイディアをプロンプトとして入力することで、瞬時に楽曲の叩き台を作ることができます。
このAIによる楽曲生成は、数十秒という驚くべき速さで一曲を生み出してしまいます。つまり、作曲にかける時間はほとんどかからないと言っていいでしょう。
納得がいくまで何度でも生成して、その中からベストなものを選び、その生成された曲を元に、バンドメンバーでアレンジを加え、構成を練り、オリジナリティを追求する作業に集中します。
歌詞についても、自分の世界観をAIに伝え、ベースとなる文章を生成してもらい、それを自分で修正し、メロディと言葉の数を合わせることで、短時間で完成させることができます。
このように、AIを駆使することで、アイディアを形にするまでの敷居が格段に下がり、創作活動のサイクルが圧倒的に早くなるわけです。
レコーディングスタジオが不要になる日も近い?

楽曲制作におけるレコーディングの工程も、ドラム以外のパート、ギター、ベース、ボーカル、キーボードなどは、かなり前から自宅でもハイクオリティなトラックが作れるようになりました。
もちろん、レコーディングスタジオには、アナログ機材のような専門的な機材や、プロのエンジニアによる最高の技術がありますから、それらが必要な場合はスタジオが不可欠です。しかし、今の技術では、ドラムすらも生音にこだわらなければ、音源自体のクオリティは高いので、1万円以下の音源でも生のドラムと聞き分けがつかないレベルのものがあります。生のドラムを録音する場合、マイクを立てるなどの手間がかかるため、それが一つの壁となりますが、それ以外の楽器の録音は、自宅の制作環境で完結できるケースが増えてきています。
そして、今後はミックスやマスタリングといった、音源の最終調整のプロセスにもAIが深く関わってくるでしょう。
AIによるミックスとマスタリングの進化
今のところ、楽曲全体のバランスを整える「ミックス」作業をAIが完全に代替する事例は私もまだ知らないのですが、近い未来にAIが楽曲を解釈し、適切なミックスの叩き台を自動で作成する機能がDAWソフトに標準搭載される日が来るだろうと私は考えています。
一方、「マスタリング」については、既にAIを活用したツールが実用化されています。iZotope社のOzoneによるAIマスタリング機能や、私がメインで使っているDAW「FL Studio」の自動マスタリング機能のように、、AIが一発で最終的な音圧や音質調整を行ってくれるのです。
これにより、バンドは録音からミックス、マスタリングまで、ほとんどの工程を低コストかつ高効率で、自力で完結させることが可能になります。
バンドのアートワークと宣伝媒体の制作革命

楽曲制作だけでなく、リリースに伴うジャケットデザインやライブのフライヤーといった宣伝媒体の制作も、AIによって劇的に変わっています。
以前は、写真撮影やデザインの知識が必要で、それらを自分たちで頑張るか、プロに依頼するしかありませんでした。しかし、今はAI画像生成サービスや画像編集機能を使えば、メンバーの写真を載せるにしても、背景の加工や複雑なデザインも簡単にできるようになっています。
適当に撮った写真でも、AIが背景を補正したり、アートワークとしてデザイン性の高いものに仕上げてくれるのです。これにより、バンド活動の初期費用や、継続的な宣伝コストは大幅に削減され、デザインのスキルがない人でも、プロ並みのビジュアルを制作できるようになりました。
音楽とAIが織りなす未来への提言と私見

AIが積極的に活用されることで、バンド活動を始めるための敷居は非常に低くなりました。楽曲の制作コストや時間は大幅に削減され、かかるコストも昔に比べれば格段に安くなっています。今の時代、バンドに必要なのは、確固たるコンセプトと、メンバーが同じ方向を向いて活動を運営していく「考え方」なのかもしれません。
演奏のレベルはもちろんですが、それと同じくらいに全員がAIツールを同じ水準で扱えることも重要になってくるのかなと思っています。
しかし、AIが生成した音楽が世の中に溢れることで、音楽の「質」や「価値」がどう変化していくのかは、まだ想像がつきません。誰もが気軽に音楽に触れ、制作できるようになるのは良いことだと感じていますが、その一方で、クリエイターとしての個性やオリジナリティが問われる時代になるでしょう。
プロの現場でも進むAI活用
あくまで私の個人的な意見ですが、今活躍されている多くのミュージシャンやプロの音楽制作の現場では、すでに何らかの形でAI生成技術が使われているのではないでしょうか。楽曲の叩き台、アイデア出しの素材、または制作スピードを上げるための補助ツールとして、AIを使わなければ、今のめまぐるしいスピード感に追いつけない状況になっていると推測しています。今後、この流れはさらに加速していくでしょう。
個性を最大限に引き出すAIツールへの期待
私が個人的に最も欲しいと思っているAIツールは、自分のこれまでの作品や演奏データ、そしてアイデアの断片を全てAIにインプットし、自分の持っている素材だけで楽曲を生成してくれるものです。つまり、自分の「色」しか入っていない、完全にパーソナルなAIアシスタントです。このようなツールがあれば、クリエイターは自身の個性を最大限に拡張し、さらに深い創作活動に専念できるようになるはずです。
倫理と規制の中で楽しむ「今」
AI技術は、これまでのクリエイティブ業界で生計を立ててきた人々の仕事を奪う可能性も秘めています。音楽で生活できなくなる人も今後増えていくかもしれません。しかし、AIを新たな道具として使いこなし、制作のスピードを早めたり、新しいポジションを見つけたりすることで、この変化を乗り越えることができるはずです。
もしかしたら、あまりにもAIが普及しすぎると、将来的に何らかの規制が入る可能性もあります。だからこそ、今この瞬間、AIを自由自在に使いこなし、創造的な遊びができる「今」を、存分に楽しむべきだと考えています。
